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灯りと仕事と安全

仕事の灯りと安全についての逸話から温故知新

 
 灯りと仕事と安全

 “灯り”の言葉から思い浮かぶ光景を連想すると部屋の灯り・くつろぎの灯り・癒しの灯りなど、まず家庭内の心休まるイメージの光が思い浮かびます。

 これが“仕事の灯り”をイメージして連想すると?灯りが照明と呼び方も変わり、明るさ・眩しさ・かげ・視認性など作業にかかわる言葉が思い浮かんできます。

 更に、仕事の灯りに安全や危険の言葉を組み合わせてイメージすると、耐震・耐水・耐塵・温度・規格基準など、性能面や用途の技術基準や防爆規格に係わる高度で厳しい仕様条件に関係してきます。

 そこで何時も何気なく使っている作業の照明を“灯りと仕事と安全”に絞って、「なかまぼっくす®」の仲間や先輩から頂いた暗黙知のエピソードの中から、お仕事に役立ちそうな部分をご紹介します。



昔も今も・・・照明環境が変わっても見えない危険は同じ (*防爆の照明はクリック)

 仕事の灯りの“明”と“暗” 

 仕事を始めるとき先ず一番に確認するのは、作業場所における物の見え方=周囲の明るさであり、その明るさが仕事の能率はもとより安全から品質など作業全てに影響します。

 しかし、如何に安全や能率面から十分な明るさが必要であっても、仕事の内容によっては必要最小の灯りで作業を進めなければならない厳しい作業環境例もあります。

 そこで “暗くて厳しい作業現場”と“明るくても厳しい作業環境”について「昔も今も、作業環境が変わっても見えない危険は同じ」を例にして温故知新としたいお話です。


暗くて厳しい作業環境

 
すぐに思い浮かぶ解り易い例としては、“爆発性ガスと粉塵の危険区域内作業”である石炭採掘の坑内作業があります。

 現在では、暗くて狭く閉塞状態における石炭採掘作業の厳しさは、日本各地の炭鉱歴史館や博物館の展示を見るしか知る由もなく、その厳しい作業内容については体験を語り継ぐどころか想像することも困難となりつつあります。

 しかし、これを現在の地下掘削作業やトンネル工事現場に当て嵌めることで、昔と同じ“暗くて厳しい作業現場”が身近に沢山あり、且つ、大規模な工事も多くあることにお気付きのことと思います。

 また、明治~大正昭和初期の採炭労働条件や制度は現在と異なり、厳しい作業の灯りとしてカンテラ(油燈)が唯一の作業照明だったのですが、現在であってもトンネル内で停電やガス吐出が発生したならば、即、真っ暗闇で同じような状況になるのですから、時代や道具が変っても危険遭遇の条件は殆ど変わり無い作業環境であると言えます。


 因みに石炭採掘作業の灯りが揮発油カンテラから、蓄電池と電球に切り替わりつつあった昭和初期の炭鉱坑道内の作業や設備の基準や保安規則*1・2)などから、その厳しさの様子を抜粋してみると次のようになります。

・作業場所 --- 
 枠なし坑道:幅2mX高さ2m、木枠坑道:約幅2.7X高さ2*2)など狭くて圧迫感があった。特に切破(坑道先端の採炭現場)は、石炭を掘り込んだ広さのみであり、狭くて暗い場所で常にガス噴出や落盤の不安があり、地上の光を拝むまでは常に気持ちが休まることはなかった。

・地熱・湿度 --- 
 地下へ36m深くなる毎に約1℃程度温度が上昇、湿度90%以上。作業場所が40℃以上のこともあった。

・キャップランプ---
 明るさ2 cp5 cp(この頃から防爆安全対策*1として、電球の切替や開閉部施錠の安全構造があった。)

・カンテラ(金網安全燈)---
 明るさ12 cp程度(日本では明治初期から昭和5年頃まで、坑内照明*1に油灯を使用していた。)

・坑道内の照明 ----
 約30m毎に4060Wの電球が1*2)程度(切破ではキャップランプかカンテラのみで照明。)

・ガスの検定方法(参考) ---
 驚くなかれ!引火爆発性のメタンガスを安全燈の炎の色と高さの変化*2)により、メタンガスの危険濃度を判断していた。
 この方法は、坑内の照明が全て電灯に切変わっていた昭和30年代になってもメタン検定器として使用していた。

 以上のように、作業場所の灯りもカンテラのみで12 cp(燭光・*3)、ロウソク1~2本程度の明るさであったことから、今では想像できない程に劣悪な作業照明環境です。しかも、岩盤の崩落やガスの突出、石炭粉塵爆発など、常に身の危険に曝され緊張しながらの作業でした。


(*1永積純次郎 著----- 近代の鉱山(1~6------------------------ 昭和14年発行

2九州鉱山学会 著---- 防爆対策(ガス・粉塵爆発)------------------ 昭和26年発行

(*3cp(燭光)------- 昔の明るさの単位、現在では比較できる鯨油製蝋燭が無いので確認困難ですが、大凡1cpの明るさとは、長さ10cmのパラフィンロウソク1本程度の明るさであったと思われます。

 かつては白熱電球の明るさを示すのに電球1W当たりの光が1cp(燭光)とされたが、これも現在の白熱電球の発光効率からでは単純に換算して比較することは困難です。

 日本では1951(昭和26)年に施行の計量法で光の強さを表す単位のカンデラに置き換えられて、1959年以降は使用も禁止されています。なお、参考までに現在、10cm位のパラフィンロウソクの光束は10 lm程度です。


明るくて厳しい作業環境 

 昔の石炭採掘作業の暗くて厳しい作業環境例に比べ、現在の“明るくても厳しい作業環境”として同じ“爆発性ガス・粉塵の危険区域内作業”を考えるとどうなるでしょうか?

 先ず、最近の化学プラントなどの工場施設では、明るく・広く・開放的であって、危険区域内であることや作業内容についての注意や「火気厳禁」などの警告の標識掲示がなければ、恐らく一般の人では危険性を認識できないばかりか現場の作業者であっても、その明るさや開放感から危険に対する緊張感が薄れてしまい危険の存在を忘れて、所謂「ヒヤリ・ハット」や「ウッカリ・ポカミス」が起き易くなってしまいます。

 反面、暗くて周囲が見え難い不安があれば、例え危険が無くても作業者自身への警戒や緊張を呼起こして、周囲に危険が存在するかも知れないとの意識から注意喚起しますが、実際に危険がある場合はそれも判別できない事になってしまいます。

 しかし、最近のガス粉塵等の危険区域内作業に於いては、その照明機器の発達により一般工場などの明るさには及びませんが、明るくて開放的な作業環境になっており、ともすると作業者自身が暗黙知とも言うべき、その危険への警戒意識が薄れてしまう要因の一つとなります。

 なお、眼に見えないガス類への対応における暗黙知に対する意識に違いが生じる例として、引火爆発など拡大被害に繋がる物質扱いの緊張感と、酸欠や中毒事故に繋がるガス類に対するものとでは、どちらも人命に拘る重大な危険なのですが、災害事故のニュース報道などの扱いでは、引火爆発事故の方がその拡大被害情況の大きさからして目立ちますので、どうしても酸欠やガス中毒事故に対する危険への警戒意識に油断や甘さが生じる面もあるように思えます。

 これらの事故防止には作業場所の危険内容について適切な表示掲示をして、作業者が危険区域内の作業中であることを常に認識できるようにしておくことがとても大切です。

作業場所の明るさについては

 JIS Z9110規格の照度基準で作業の内容と明るさの基準を知ることができます。

・【事務所の照明:Z9110-付表1事務所】オフィスなどの作業内容における必要照度です。

・【工場の照明:Z9110-付表2工場 】 場所と仕事内容で明るさや光の色にも配慮が必要です。

・【船舶の照明:Z9110-付表3船舶 】 通常の工場照明に比べると相当暗い基準となります。

 これらの規格にある照度(lx)と分布については、照らされる面の明るさと範囲、照明器具と照明位置や作業の内容で、その明るさや照明手段を決定します。

 なお、可燃性ガス・粉塵など特殊場所の防爆照明では、使用する照明機器の電力や発熱に制限がありますので明るさに不足がある場合の対応は、防爆型照明機器の灯数で補うか移動して照明できる防爆型懐中電灯や手持ちの防爆型ハンドランプを使用することになります。


 新しい規格は知識、昔の知恵は常識、

 工場施設で最新の関連規格や設備基準は安全維持と事故防止に欠かすことの出来ない基礎知識です。また、操作や加工のノウハウには、作業者の安全と製品品質を守る昔からの知恵や技の伝承が必要です。

 しかし規則や基準に則った作業ができていても諸々の作業には個人差があります。俗に言う器用・不器用って言われる仕上がり品質の問題とか得手・苦手と言われて関係する生産効率などです。

 また、作業が辛いとか疲れが感じるなど身体的な苦痛に繋がる温、湿度などと作業場所の照明環境、特にその中で徐々に身体に影響を及ぼすのが作業場所の明るさやグレアで、 このほか仕事の明るさには年齢や視力で個人差があり、それを補うのが作業灯などの補助照明です。

 この様に作業照明が作業効率や健康にまで配慮され始めたのは昭和中期
(*4)になってからであり、それ以前は勿論ながら個人用に複数の灯りで照らして仕事をすることは殆どありません。以下は年代別に灯りの歴史と作業照明の変化を表にしました。

 なお、仕事をする場所の灯り、つまり作業照明の歴史を考えるには、それ程に歴史を遡る必要はありません。何故なら電灯の普及と工業製品の生産が増えることが概ね比例しているからです。つまり、工場の作業照明は品質とか生産性やエルゴノミクスなどへの対応と共に進化しているからです。

仕事の灯りの歴史
 年  代 新しい灯りの出現 照明器具の変化
 ~ 江戸時代  蜀台・蝋燭・油灯 鉱山内の油灯カンテラ照明のほかは作業専用の照明として特に使い分けなし。生活の照明には燭台などの油灯や蝋燭など、光源は動植物油脂の燃焼による。
 明治前期  ガス燈・アーク灯 明治5年、東京府の府令でガスや燈油ランプによる照明が街燈や軒燈に普及始まるほか、工場の作業照明としても使用始まる。炭坑では金網安全燈の輸入や揮発油安全燈などの改良が進む。電灯事業や電球製造などの電気照明は草創期
 明治後期・大正  燈油ランプ・電球 明治43年、東京府の街灯がガス1187基、燈油ランプ5600基以上設置(*5)大正期には燈油ランプから電球照明に急速に替わる。工場では動力を始め電気による作業照明が普及。タングステン線電球の出現で明るさと寿命が改善される。
 昭和前期  電球・放電灯 炭坑ではキャップランプなどの作業照明が蓄電池の利用に替わり、明るさも油灯カンテラを遥かに凌ぐ。工場照明では水銀・ナトリュウムなど高輝度放電灯の草創期。
 昭和中期  蛍光灯 潜水艦の照明など低発熱や太陽に代わる光線として軍用に蛍光灯を使用後、
戦後は蛍光灯による作業照明の草創期。
昭和28年には工場の照明基準も新たに見直しされ作業照明の関心が高まる。蛍光灯による作業照明が普及はじまる。
 昭和後期  高機能蛍光灯 高効率の蛍光灯開発など、あらゆる照明で蛍光灯が主流となり、点灯回路もインバーター方式で小型化と高効率化。発光は明るさと共に演色性が重視される。
 平成 ~  LED・有機EL 蛍光灯を凌ぐ性能からLEDが一般照明用として普及始まる。省エネルギーの観点から白熱電球が蛍光灯使用に替わる。新たな光源として有機ELなどの草創期。

 (*4) 関 重広 著 --------- 照明の設計  --------------------------- 昭和28年発行

 (*5) 岩井 宏寛 著 ------- 民具の博物誌 --------------------------- 平成 2年発行


  仕事の灯りの“耐”と“防” 

 仕事に使う灯りでは、作業環境によって水、塵・温度・振動・衝撃などに“耐える”ものと感電・燃焼・爆発を“防ぐ”目的の機能や構造が必要であることを理解しておく必要があります。

 例として、カタログなどに“耐薬品型”とか“耐震型”とあれば、特定の薬品に耐えるとか振動に強い機能や構造の照明機器であると判断できますが、これが“防水型”とか“防爆型”と表示があると「水の浸入を防止して感電を防ぐ」や「ガスなどの引火爆発原因とならない」仕様のものであって、照明機器そのものではなく照明機器周辺の人や物の安全が対象となります。

 また、耐圧防爆型ハンドランプが「どの位の爆発に耐える?」とか「圧力や爆発に耐える作業灯」などの問合せ例があるように、これらは防爆規格の文字や呼称からくる誤解もあるようです。下表は、作業用照明機器に限って耐と防の呼称と機能目的の一覧です。

作業用照明機器の耐と防の呼称と機能目的
対 象 呼 称 機能・構造・仕様 規 格 目 的
 水・水濡・湿度  耐水・防水・防湿  侵入に対する保護  JIS C 0920など  機器を保護
 固形物・異物  耐塵・防塵・異物保護  侵入に対する保護  JIS C 0920など  機器を保護
 絶縁・耐電圧  耐電圧・耐湿・防炎  内外要因からの保護  JIS C 8105など  感電・漏電防止・防火
 温度・放射  耐寒・耐熱・防止  内外要因からの保護  JIS C 8105など  機器を保護・周囲の保護
 振動・衝撃  耐震・防振・除振  外部要因からの保護  JIS C 8105など  機器を保護
 ガス・蒸気  耐圧防爆・本質安全  外部要因からの保護  JIS C 60079など  周囲の保護・防災

 表のとおり、カタログに“耐”や“防”の文字があっても、その機器は必ずしも内外からの障害要因に対して“耐える”とか“防ぐ”目的でないことに注意してください。

 なお、耐圧防爆機器を安易に呼称省略して文書に耐爆機器と表示したばかりに、そのまま読んで文字とおり爆発に耐える構造の機器であると誤って翻訳された例もあるなど、製品の用途や仕様に拘る呼称は“正しい用語”であることの確認も大切です。

 また、昔の炭抗防爆では耐圧防爆構造機器を耐爆機器と略した呼称とした例や、現在でも充電電池の爆発から周囲を守る目的の製品を“防爆仕様”と呼ばれる例もありますので呼称の“耐と防”の判断には、くれぐれもその機能や目的に注意が必要です。

気軽に認識できて記憶に残せること。

 技術変化の激しい現在、仕事に関わる知識をはじめ最新の情報収集は大切です。
それと共に、暗黙知とも言うべき経験や感など言葉で表し難いノウハウ把握も必要です。


 しかし、I T時代の生産現場に於いてはマニュアル中心の作業管理が主流となり、今まで先輩などから見て・聞いて・触れて体験して来た、いわゆる勘所とかのノウハウ伝承が出来難くなりつつあります。

 特に、団塊世代の先輩が現場を離れて漫画世代の管理職に交代しつつある最近では、緊急時の安全対策などの様に、滅多に起き得ないが過去の知識や経験に基づくノウハウが必要となる、暗黙知とも言うべき安全対策の真髄を伝承することが大変困難になりつつあります。

 そこで“
学問に王道なし”の諺を“安全対策に王道なし”と読み替えて、webから 安全に関わることは広く気軽に認識できて記憶に残せること” を目標として
、過去の「なかまぼっくす®」先輩の逸話の中から“温故知新”となりそうな仕事に役立つ部分を抜粋して紹介しています。

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